グリンシン
最近、広く知られるようになったグリンシンです。
バリ島東部のテガナン(トゥガナン)村に、バリ・アガ族が暮らしています。
バリ島の多くの人が信仰するヒンドゥー教を受け入れず、
独自の精霊信仰を守り抜いている人たちです。
生活スタイルはユニークで、集落は垣根で囲われ、
外部とを隔てる入り口の門をくぐらなければ入ることができません。
垣根の内側には、規則正しく昔ながらのバリ様式の家が並んでいます。
昨今のアジアブームの中、アジアの民の暮らしがテレビや雑誌でもよく取り上げられます。
バリ・アガの村とグリンシンの織り布、アタの籠の話題もよく目にします。
グリンシンは、バリ・アガにとって神聖な布で、祭礼行事の正装の際に、
胸に巻きつけたり、肩掛けとしてまとったりします。
経緯絣で、以前にご紹介したインドのパトラと同じ技法です。
織り上げた完成品を想定して、あらかじめ模様に合わせて染めた糸を、機織に掛けます。
それを、同じようにあらかじめ染めた緯糸で、模様をパズルのように合わせながら織り上げます。
現在も、指定の植物由来の染料しか使用せず、ダラメラ(血の色のような赤)に
なるまで、何度も何度も繰り返し、何年もかけて糸を染めています。
染めた糸を機に掛け、織り上がるまでに、7~9年かかると言われています。
アタの籠の丁寧なつくりは、コイリングという技法で編まれる籠で、100年以上使える丈夫だと
評価されれています。今ではバリ島、インドネシアだけではなく、中国製まで出回っています。
そうして作られたグリンシンや、アタの籠は、自宅の前をちょっとした店にして、
販売されています。グリンシンには1,000~5,000ドル(米ドル)の値がつけられていました。
そういう、プリミティヴな生活と、丁寧な仕事をする織り布や籠が日本でも話題になりました。
一時は、アジアの布と言うだけで、「グリンシン」の名前が出たほどでした。
それに付随して、病気で苦しい時に、大事にしてきたグリンシンを1cm角ほどに切って、
煮出して飲む...とか、血で染めた布だ...と、多くの人たちから聞かされました。
血で染めたというのは、ダラメラ(ダラ=血、メラ=赤)という言葉を誤った解釈を
しているのだろうと想像がつきます。グリンシン(布)を1cm角に切って飲むというのは、
正直のところどう考えても理解が出来ませんでした。
当時、バリ島を訪れた時に、同行した友人が行ってみたいということもあって、
バリ・アガの村を訪れました。
さっそく、「グリンシンを切って煮出して飲むことはあるのか、あったのか?」
と何人かに聞いてみました。
「中には、そういうことした人もいるのかもね...」と戸惑うのは織りの上手い中年女性。
「そんな話、聞いたことがない。何年もかけて織るものなんだよ!少なくても、
自分の家族や知っている人には、そういう人はいないよ」とその亭主。
「そんな話が出ているんだ。ちょっと考えにくいな。でも、日本人や欧米人が好きそうな話だね。
そういう話にすると売れるかな?」笑みを浮かべた、おじさんが印象的でした。
・・・誰かが突飛なストーリーで、話題を呼ぼうとしたのだろうかと、考えてしまいました。
写真 近年のグリンシン。以前に比べ価格もだいぶ安くなりました。
象徴とされる5つのデザインを一枚に織り込んでいます。以前のものと比べようと、買った一枚です。
観光地化されたバリ・アガには、現在は村の入り口前に大型観光バスが止まるまでになっています。
■パトラ http://blogs.yahoo.co.jp/rmkn980302/357585.html?p=1&pm=l